ニュースでよく聞く「インフレ」や「デフレ」、学校で習ったような気もするけれど、実はよく分からないという方も多いのではないでしょうか。
「インフレ、デフレってなんだろう?」
「よく聞く言葉だけれど、違いが分からない」
「インフレ、デフレってどっちがいいの?」
このような疑問を持つ方もいるかも知れません。
そこで、この記事ではインフレ・デフレに関する以下の内容を分かりやすく解説します。
- そもそも物価とは?
- インフレ・デフレの違いって?
- インフレ・デフレどっちがいいの?日本の対策は?
- インフレ・デフレの投資への影響は?
インフレ・デフレは、一般常識とも言える経済用語です。この記事を読めば、ニュースに出てきたときはもちろん、私たちの生活にどのような影響があるのか理解できます。
経済ニュースや投資をする際によく聞く金融用語についてもまとめて解説しているので、、ぜひ最後までご覧ください。
そもそも物価とは?
インフレ・デフレは、「物価」の状況を表す用語です。そのため、まずはその「物価」について理解しましょう。
「物価」とは、商品(モノ)やサービスの価格をまとめて表したものです。
その商品やサービスが、お金に換算して現在いくらの価値を持っているかを示しており、経済の指標の一つとして使われています。
商品やサービスの価格(物価)は、原料費・製造コスト・人件費・輸送費などの経費から販売価格を決めますが、他に価格に大きく影響するのが需要と供給のバランスです。
たとえば、コーヒー10杯の販売(供給)に対して、コーヒーが欲しい人(需要)が20人いれば、供給<需要となり、コーヒーの価値があがり価格も上昇します。逆に、コーヒー10杯の販売(供給)に対して、コーヒーが欲しい人(需要)が5人しかいない場合、供給>需要となり、企業はより多くの人が買いやすいように価格を安くします。
また、原料費であるコーヒー豆も、その年に多く取れれば供給が増えて価格が下がりますが、不作であれば供給が減り価格が高騰するケースがほとんどです。
このように、コストや需要と供給など、さまざまな要因で物価は変化し、人々の生活に影響します。また、物価と景気は相関関係があり、景気が良ければ人はモノやサービスを買うため需要が増え、物価は上がるのが一般的と言われています。
インフレ・デフレとは?違いは何?
物価の仕組みついて分かったところで、次は「インフレ」と「デフレ」について解説します。
インフレ | 物価モノやサービスの価格(物価)が上がり続ける現象 |
デフレ | モノやサービスの価格(物価)が下がり続ける現象 |
物価が継続的に上がり続けることまたは、下がり続けることをそれぞれインフレ・デフレと呼びます。
商品やサービスの価格が上がり続けるインフレは、「お金の価値が下がる」ことを意味します。
たとえば、コンビニに1杯180mlで100円のコーヒーが売られている場合で考えてみましょう。
ある日、コーヒーが150円に価格を改定されました。単純に考えると「コーヒーの価格が上がった」と言えます。これは同時に「100円に、コーヒー1杯を買えるほどの価値がなくなった」とも言えます。
また「コーヒー1杯=100円」は変わらず、内容量が少なくなってもインフレと言えます。180mlが160mlに減ってしまえば、100円で買えるコーヒーの量が少なくなっていると考えられるからです。
通常、インフレは景気が良い時に発生します。好景気になると給与が増えるため、働いている人の収入が増加。収入アップに伴い、モノやサービスの消費も増加します。そうなると、モノやサービスの供給が足りなくなります。
このとき「少し高くてもいいから商品を売って欲しい」と思う人がいるため、さらにモノの価格が上がる、というのが好景気のサイクルです。
デフレはこの逆の現象で、コーヒー1杯の価格が下がる、または100円で飲めるコーヒーの量が増え、「お金の価値が上がった」とも言えます。
これだけ聞くと「モノやサービスの価格が下がるのは、いいことなのでは?」と思うかもしれません。
しかし、インフレとデフレはそれぞれメリットもデメリットもあります。それぞれ詳しく解説していきます。
インフレのメリット
モノやサービスの価格があがるインフレは、うまくサイクルが回れば景気向上につながります。
モノやサービスが高く売れ、企業の売上が増え、給料も上がりやすい
物価が上がれば、企業は商品を高く売り、より大きな利益を出しやすくなります。企業の利益が増えれば従業員の賃金にも還元されやすく、給料やボーナスアップにつながるでしょう。
また、企業の利益が増えれば新しい事業や投資ができ、雇用の機会も増加します。
給料が上がることで消費が増え、景気が向上する
個人の収入が増えれば、人々はより多くのモノやサービスを利用します。そういった消費が増えることで企業の売上は更に増加。景気が良くなり、国全体の生活が豊かになる。というのがインフレの最大のメリットです。
そのため、政府もインフレを目指す方針を打ち出し、税制や金利などの調整を行ったり最低賃金の引き上げを行ったりするなど、さまざまな政策が取られています。
預貯金の金利が上がる
一般的に好景気に起こるインフレですが、急激に物価が変化すると経済を不安定にし、不景気のきっかけにもなりかねません。
そのため、インフレになると一般的に取られる政策が、金利の引き上げです。
金利が上がれば企業も個人もお金を借りにくくなり、お金の流れが抑制されます。そのため、急激なインフレを抑え、経済も安定しやすくなるのです。金利の引き上げは、銀行の預貯金の金利(利息)が増えることも意味します。銀行に多くのお金を預けているほどメリットを受けられると言えるでしょう。
インフレのデメリット
インフレには良いインフレと悪いインフレと言われるものがあります。
良いインフレでは、メリットで上げたとおり物価が上がると同時に、同じ水準以上で給与が上昇。生活負担は変わらないか軽くなります。
では、悪いインフレとはどのようなものか、詳しく見てみましょう。
物価の高騰に給料の増加が伴わず、景気が悪くなるきっかけに
物価の高騰に対し、給与の増加が伴わないインフレが、悪いインフレです。
たとえば、年間200万円生活費がかかっていた場合、物価が10%高騰すれば、生活費は220万円必要になります。
同時に300万円の給与水準が10%上がり、330万円になれば、手元に残るお金も増加します。しかし、ここで給与が上がらなければ支出だけが増えてしまうことになる、というわけです。
分かりやすく表にまとめてみましょう。
元の収支 | 良いインフレ (物価も給与も10%増加) | 悪いインフレ (物価が10%上がり、給与はそのまま) | |
---|---|---|---|
給与(年間収入) | 300万円 | 330万円 | 300万円 |
生活費(年間支出) | 200万円 | 220万円 | 220万円 |
貯蓄(残るお金) | 100万円 | 110万円(+10万円) | 80万円(−20万円) |
悪いインフレでは、物価が上がったのにもかかわらず給与は同じで、貯蓄できるお金が20万円も減ってしまいました。
この場合、支出(生活費)を削ろうと考える人がほとんどではないでしょうか。節約志向が強くなれば消費は落ち込み、企業の売上は減少。ますます個人の収入が減りやすくなるという悪循環が生まれます。
個人の収入が増えないインフレはデメリットが大きいと言えるでしょう。
貯金したお金の価値が下がり、将来的により多くのお金が必要になる
将来のために貯めた貯金もインフレが続くと価値が下がってしまい、将来必要な資金が足りなくなってしまうかもしれません。
たとえば、老後資金として2,000万円貯めたとします。貯めた当時の生活費で計算すれば20年間暮らせる資金だとしても、物価が上がれば生活費も上がり、20年暮らすのにさらに多くのお金が必要になります。
これをインフレリスクといい、資産形成の面では、預金以外への投資がインフレリスクへの対応に有効と言われています。
デフレのメリット
次はモノやサービスの価格が下がるデフレのメリットを解説します。
貯金していたお金の価値が上がる
デフレではお金の価値が上がるため、貯金していた100万円で、貯金した当時よりも多くのモノや、より価値のある買い物ができるようになります。
もともと資産を持っている人にとってはメリットになり得るのがデフレです。
物価が安くなり、(一時的に)モノやサービスが安く買える
より安くより良いものを買いやすくなるのは、部分的にはメリットと言えるでしょう。
ただしそれは、商品を開発・販売する人の人件費などを削り、需要に合わせた価格にしている場合が多く、結果的に消費者にとってメリットばかりとは言えないのが実情です。
デフレのデメリット
デフレのデメリットは、景気後退に繋がる可能性があることです。詳しく解説していきます。
企業の売上が下がり、給与が下がる
一般的にデフレは不景気で起こります。モノやサービスの価値が下がると、同じ量を売っても企業の売上や利益は上がりません。
売上を伸ばせない企業は、コスト削減で人件費を削ったりリスクに備えてお金を貯め込んだりするため、従業員の賞与などの賃金減少につながります。
雇用の不安定化や不景気に繋がる
デフレは長く続くほど雇用の不安定化や不景気を助長します。
企業も売上に不安がある状態では投資がしにくいため、雇用を減らすなどの対策を取らざるを得ません。結果、失業率の上昇や収入格差が起きやすくなります。
2000年代の日本は長くデフレ状態にあり、企業は雇用を制限したり派遣を増やしたりするなどの対策が取られてきました。それは現在、非正規雇用者の増加や、収入格差の課題につながっています。
デフレは一時的ではなく、長期的なデメリットをもたらす可能性が高いと言えます。
買う立場に立ってみれば、商品やサービスは安いに越した事はないでしょう。
しかし、ただ安い商品ばかりを求めてしまうと、その商品を作っている人の収入を減らしてしまう可能性があると覚えておくと良いでしょう。
インフレ・デフレはどっちがいいの?
インフレとデフレのメリット・デメリットそれぞれについて解説しましたが、結局どっちがいいのでしょうか?
結論として、経済的には「緩やかなインフレ」が良いとされています。
「緩やかなインフレ」とは、毎年少しずつモノやサービスの価格が上がり、それに伴って企業の売上・給料が上がる状態です。目安として、日本では年2%のインフレを目指しています。
インフレのデメリットで挙げたように、給与の増加が伴わない値上げは消費を減らし、逆に不景気になりかねません。
緩やかに物価が上昇し、「適正な価格でモノやサービスが売れること、価格の上昇が収入に還元されること」が望ましいインフレの状態です。
日本の金融対策は?
バブル崩壊から不況が続いていると言われる日本は、長くモノやサービスの価格が安いデフレが続いていました。先の項目で説明したように、日本政府はデフレ脱却のために2013年から2%のインフレを目指した「物価安定の目標」を掲げています。
しかし、物価上昇は2013年から2021年にかけて毎年平均0.6%程度の上昇率にとどまり、給与水準もほとんど変わっていません。
2021年以降は、食品や家電などさまざまな値上げが相次ぎ、インフレが加速傾向にあります。しかしこれは、コロナ禍や世界情勢の不安定さから、石油や天然資源・各原料が高騰した影響が大きく、給与や好景気に繋がるとは考えにくいでしょう。
(出典:総務省統計「消費者物価指数」、厚生労働省「平均給与の推移」)
政府と日本銀行は、金融緩和や賃上げを促すなどの対策を行っていますが、今後も変化が大きい中でどう対応していくのか、常に注目が集まっています。
消費者としては、世の中のニュースや政府の対策がそれぞれ家計へ大きな影響を与えると理解し、関心を持っておくことが大切です。
また、インフレ対策として、現金以外の株や不動産といった資産を持つというのも有効です。
次は、そんな投資資産がインフレ・デフレで受ける影響について解説します。
インフレ・デフレの投資への影響は?
お金の価値が変わってしまうインフレ・デフレでは、貯金の価値に影響があると紹介しました。
では、預金(現金)以外の、株式や不動産など投資への影響はあるのでしょうか?
結論から言うと、インフレ・デフレは投資にもさまざなま影響を及ぼします。
インフレとデフレそれぞれの投資への影響を見ていきましょう。
インフレによる投資への影響とは
まずはインフレによる投資への影響です。物価の上昇に伴い、株式の価値も上がりやすくなるので、株価にとっては良い影響をもたらします。資産として株式を持つ人はインフレに強いと言えるでしょう。
逆の見方をすれば、超低金利の昨今、貯金をしていても預金の残高は増えません。メガバンクの金利は0.001%で、1年間100万円を預けても利息は10円。この状態でインフレが起これば、100万円の価値は目減りします。
他にも、インフレに弱い金融商品として挙げられるのが保険です。払った保険料より多くの保険金は、ほぼ見込めません。貯金と同じく、インフレにより高確率で価値が減少します。
「貯金するより株を持った方が良い」「保険はやめておいた方がいい」という人の中には、インフレを理由に挙げる人も。株式はインフレで価値が上昇しやすく、現金ほど影響を受けにくいためです。
また、株式の他に、以下の金融商品もインフレに強いとされています。
- 投資信託
- 不動産
- 金
中でも不動産や金を「現物資産」と言います。不動産や金は、それ自体に価値があり、インフレの影響を受けにくいのです。
もちろん株式を含め、インフレに強いすべての金融商品の価値が上がるわけではありません。人気がない金融商品の価値は、変わらないことがあります。
ただ、「インフレのデメリット」で触れた通り、資産が現金だけでは不十分です。現金の他に、インフレに強い資産を持っておくことは、インフレリスクの回避に有効必要な対策と言えます。
デフレによる投資への影響とは
一方、デフレの場合はモノやサービスの価格が下がり、お金の価値は上がります。モノやサービスの価格が下がると、企業の収益も減少。企業の売り上げを反映する株式の価値は下がります。そのため、デフレのときは株式ではなく、現金の比率を増やすのが良いとされています。
以下はデフレに強いと言われる資産です。
- 現金
- 預貯金
- 債券
ちなみに債券とは、国や企業が資金調達を目的として発行する、有価証券です。小切手や手形も有価証券に該当し、借用書や商品券のようなイメージです。債券を購入して満期まで持っていると、満額で受け取れます。
デフレに強い資産は、インフレに弱い資産とも言えます。インフレとデフレで、投資の戦略を変えることが肝心です。
インフレ・デフレのよくある質問
ここでは、インフレやデフレのニュースでよく聞く経済の専門用語や、円安との関係について解説します。
「スタグフレーション」とは、景気の停滞を意味するスタグネーションと、インフレーションを組み合わせた言葉です。景気の停滞とインフレが同時に進行する状態を指します。
インフレのデメリット1で挙げた、いわゆる「悪いインフレ」の状態です。
前述の通り、景気の停滞はデフレを引き起こしやすくなります。しかし、原油価格の高騰に代表されるように、景気が停滞しているにもかかわらず、物価が上昇することがあります。たとえば、日本では1970年代のオイルショックの時期がスタグフレーションの状態でした。
スタグフレーションでは、従業員の賃金は上がりません。しかし、モノやサービスの価格は上がっているため、人々にとって厳しい経済状況と言えます。
現在では、コロナ禍による経済へのダメージに加え、ウクライナ情勢や環境問題に関わる原料の供給制限などの影響で資源価格が高騰し、世界的なスタグフレーションへの危機感が高まっています。
インフレが急激に進んだ状況を「ハイパーインフレ」と言います。短期間のうちにモノやサービスの価格が急激に上がることを指します。
有名な事例としては、100兆%のインフレ率を記録した第一次世界大戦中のドイツです。
教科書で紙幣を積み木のブロックのようにして遊ぶ子供の挿絵を見たことはないでしょうか。紙幣の価値が下がり、1つのパンを買うのに大量の紙幣が必要になりました。
他にも、2008年頃のジンバブエで2億3,000万%、2013年頃からベネズエラで169万%のインフレを記録しています。
外国だけでなく、日本でも過去にハイパーインフレの事例はあります。第二次世界大戦中から終戦後、モノの価格が180倍に跳ね上がりました。インフレ率で言うと、年率40%。現金を持っていた富裕層は、ここで資産のほとんどを失いました。
現在の日本では、政府の金融緩和などでハイパーインフレが起こる確率は、極めて低いと言われています。必要以上に恐れる必要はありませんが、通常のインフレに対応できる体制は整えておきましょう。
物の価格が下がり、不況に繋がる悪循環を「デフレスパイラル」といいます。
デフレの流れは以下のようになり、デフレスパイラルはこのサイクルから抜け出せなくなってしまう状態です。
- モノやサービスの価格が下がる
- 企業の利益が減少する
- 従業員の収入が減る
- モノやサービスの消費が減る
- 需要が減って価格が下がる
日本では、2001年頃から2012年頃までデフレが続いていたと言われ、特に2001年〜2005年、2009年〜2012年は毎年物価が下がり続けました。(参考:統計局ホームページ|統計Today No.146)
平均年収も12年間で40万円近く下がり、不景気が長く続いていることが分かります。
また、デフレが続くほど、企業が人を雇わなくなり新しい雇用や事業が生まれにくくなります。現在だけでなく未来の世代の貧困化や貧富の差に繋がるのが、デフレスパイラルの怖さです。
円安は外貨の価値が上がることを意味し、たとえば、1ドル100円だったドルレートが1ドル120円に上昇します。
そのため円安時は、海外からの輸入により多くの円が必要になり、輸入商品の価格は高騰。逆に輸出する製品の価格は下落します。海外からの輸入に頼っている石油などのエネルギーを使う輸送費や、さまざまな加工品も高くなり、国産の商品も高くなるケースが多くあります。
一方、海外への販売が多い車業界などは、価格を抑えて販売しやすくなり、売上が向上する可能性も。企業や商品によって良い影響も悪い影響も出てきます。
また、海外情勢の影響などでおこった円安をきっかけに、国内のインフレにつながることもあります。
まとめ
この記事では、インフレとデフレの違いを主に解説しました。
- インフレとは、物価が上がり、お金の価値が下がること
- デフレとは、物価が下がり、お金の価値が上がること
- スタグフレーションとは、景気の停滞中に物価が上がること
- インフレとデフレで投資の戦略は変わるので、柔軟に対応する必要がある
インフレとデフレ、どちらも私たちの生活には影響があります。用語の理解とともに、どちらの状況に陥っても困らないように、バランス良くインフレ・デフレ対策を行いましょう。